| 曾野綾子さんが 93歳で旅立たれた 宮崎正弘 2025_3_06 市民生活の目線でつねに「常識」を論じた。 保守論客ばなれした、末端の市民、とくに主婦層を説得するやさしい表現に特徴があった。 チャリティのため世界中を旅行され、それもジャングルや砂漠のはてや、山奥へ出かけるのである。 個人的な印象をいえばアルゼンチンの山の教会をまもり、孤独に果てた日本人の修道女のことを綴った中編である。 当人とあったことはないが、筆者の知人の姉だった。 当該知人も海外駐在経験が豊富で、姉の異境での訃報を聞いて、スペイン語を再度学習しつつ、 チリの修道院へ赴いて後処理に忙殺された苦労話を延々と聞いたことがあった。 そのときに曾野作品のモデルは姉だったと言った。 曾野さんと最初にあったのは半世紀以上は前、インタビューで夫君の 三浦朱門氏と会話中、応接間に入ってきた。 文壇のパーティなどでお目にかかることは多いが、小生が担当した 『保革逆転』には曾野さんのチリにおける保革逆転ルポ（かなり長い）が入っている。 古い話だが アジェンデ政権が全体主義に傾いて大統領府にまで機関銃を持ち込んでいたこと。 ピノチェット将軍率いた軍事クーデターで消されるまでアジェンデはチリに君臨し、経済を破壊した。 ところが左翼史家は、チリの反革命を真逆に書いて、ピノチェットを独裁者として批判するに到った。 曾野さんは、そうした新聞報道の軽さを戒めた。 ともかく日本で常識をのべると猛烈な反対がおこる。 朝日新聞を筆頭に非常識なことを主張する勢力が保守の常識を破壊する。 こうした文脈に於いて曾野綾子さんの言動は明確なメルクマールとなっていた。 曾野さんは義理堅い人で、慈善事業には全身全霊を込め、日本財団の会長も無給で十年つとめ社会に貢献した。 恩師の 中河与一の葬儀のおりは（小生も小田原の斎場へ行きましたが）曾野さんも臨席され火葬場までつき会っていたことを思い出した。 一部の報道に「おんな三島由紀夫」との比喩があったが、かなり見当違いである。 キリスト教は自裁を認めない。 このため曾野さんらクリスチャンは 『憂国忌』の発起人には加わらなかった （遠藤周作が発起人に加わったのは25年目だった）。 西洋人は自殺ではなく殉教という位置づけに転化させ、三島を捉える文藝批評家も多いが、この方面で曾野綾子さんの発言は少なかった。 ともあれ膨大な作品群を残された。 合掌 私見 ： 曾野綾子さんの本を何冊か読んだ 一昔前、曽野さん自身の話を聞きたいと思い、新宿の紀伊国屋ホールでの講演会に足を運んだ。 毅然とした物腰とその話の内容が、まだ記憶にある。 アフリカ奥地まで医薬品などを現地で活動している日本人修道女に自ら奥地まで足を運んで届け、（現地政府に依頼するとまともに届かないというので） カンボジアの爆弾処理に携わる自衛隊員に介助されて松葉杖をつきながら（骨折後に）現地を訪ねるという行動の人であった。 当備忘録の中には、「戒老録」 「老いの行幸」 「老いの才覚」 「自分の始末」 「魂を養う教育 悪から学ぶ教育」を要点抜粋で掲載させて頂いている。 生き方について、多くを学ばせていただいた。 心からのご冥福を祈りたい。 作家の曽野綾子さん死去 93歳、「神の汚れた手」「太郎物語」 日本財団会長も務める 産経 長編小説「神の汚れた手」や「太郎物語」などで知られる作家で文化功労者の曽野綾子さんが2月28日午後2時59分、老衰のため都内の病院で死去した。93歳。 聖心女子大英文科卒業。 高校時代から創作活動を始め、文芸同人誌「新思潮」に参加。 そこで 三浦朱門氏と出会い、大学在学中の昭和28年に結婚。 翌29年、占領軍の米軍人たちを日本人女性通訳の目から描いた短編「遠来の客たち」が芥川賞候補となり、23歳で文壇デビュー。 夫の三浦氏や 遠藤周作氏らとともに「第三の新人」と呼ばれた。 以後、長編「たまゆら」「午後の微笑」など話題作を次々に発表し、人気作家に。 カトリックの信仰に基づき人の善悪両面を直視する人間観と、日常生活の細部にひそむ面白さを鋭くとらえる観察眼は小説以外でも発揮され、 エッセー「誰のために愛するか」「老いの才覚」「夫の後始末」など、人生論の分野でも壮年期から晩年まで多数のベストセラーを生み出した。 主な長編小説に、大久保清事件をモデルにした「天上の青」、息子の成長を描いた「太郎物語」など。 本紙正論メンバーとして長年健筆を振るうなど論壇でも活躍し、63年に正論大賞受賞。 平成24年には菊池寛賞を受賞した。 産経新聞には14年から17年間、エッセー「透明な歳月の光」を連載していた。 7年から17年まで 日本財団会長を務めたほか、21年に日本郵政の社外取締役、25年には政府の教育再生実行会議委員に就任。 また中年期から長年にわたり私財を投じてアフリカや南米への医療支援を続けるなど、晩年まで社会的活動にも精力的に取り組んでいた。 人間の本質を直視した数々の作品がベストセラーになったほか、世間が言えないことを言う硬骨の論客として、また長年にわたる国際的慈善活動でも知られた。 誰に対しても公正で偉ぶらない朗らかな人柄と、自分を曲げない芯の強さを併せ持つ希代の作家だった。 「女三島由紀夫」 聖心女子大在学中に同人雑誌への投稿で文芸評論家の臼井吉見に見出され、 若さに見合わぬ文才で「女三島由紀夫」の異名をとるなど、美貌の新進作家として戦後文壇に華々しくデビュー。 活躍ぶりは有吉佐和子さんら同時期に続々と現れた女性作家とともに〝才女時代〟と評されたが、その中でも群を抜いて目立つスター的存在だった。 以後 70年以上にわたり、第一線作家として活躍。 中年期には不眠症や白内障に苦しんだが、いずれも力強く克服した。 執筆の秘訣については「私の小説のタネはたいてい一行である場合が多い」と語り、 新聞の雑報や日常の小さな出来事にひそむ深い部分を持ち前の好奇心と観察力で膨らませ、人生の断面をえぐる小説に仕立てる手法を得意とした。 代表作の一つ「神の汚れた手」は、出産と中絶の両方に携わる産科医の葛藤を正確な医療情報に基づいて冷静に描く長編小説で、 生命の尊厳や生殖医療の倫理を問い、大きな反響を呼んだ。 綿密な取材力には定評があり、特に土木工事現場巡りはライフワークで、ダム建設を描いた「無名碑」「湖水誕生」などの名作に結実した。 左派を果敢に批判 社会問題にも歯に衣着せぬ評論を展開。産経新聞「正論」欄では昭和48年の創設当初から健筆をふるい、 中国礼賛報道や差別語狩りなど、当時言論界で全盛を極めていた左派イデオロギーを健全な常識で果敢に批判し、多くの読者から支持された。 63年の正論大賞受賞時には「生活の条件がある程度整った時こそ、逆に私たちが魂を持った人間になり得るかの試練の時になります」と語り、 逆境こそ成長の糧になるという人間観に基づく教育論や人生論でも「人間の分際」など多くのベストセラーを生んだ。 おしどり夫婦 口癖は「元気な限り、働く義務がある」。 その言葉通り、80歳を超えてからも新たにマダガスカルでの医療援助プロジェクトに取り組んだ。 関係者によると、令和2年10月に自宅で転倒し、足の骨を骨折。 その後自宅療養をしていたが、昨年秋ごろに都内の病院に入院したという。 夫の三浦朱門さんとは文壇きってのおしどり夫婦として有名。 晩年の三浦さんを自宅で自ら1年以上にわたり介護し、平成29年2月に死去した際には 「こんな安らかな最期を迎えられたのは、日本の医療制度のおかげです」と静かに社会への感謝の言葉を述べていた。 「生き方」 へ戻る |