女に負けた　　中間選挙でトランプ共和党がなぜ負けたか　　　高山正之　　　　　変見自在　　　2022/12/01 薬 (ﾔｸ)をやった黒人青年がフリーウエーを一時間も暴走してロス北西レイクビューテラスで捕まった。 このとき 4人の白人警官が青年をぼこぼこにするビデオが世界に流され、被害青年 ロドニー・キングは米国の人種差別の象徴に祀り上げられた。 米当局は事態をとりなそうと白人警官を裁判にかけたが、評決は無罪。 怒った黒人が暴れ出して死者63人を出すあのロス暴動に繋がった。 この騒ぎは米大統領選の年に当たった。 再選を期す ブッシュ親父は黒人票を取り戻そうと白人警官を今度は連邦法の公民権法で裁判にかけた。 それで有罪にしたが、大統領選は色情狂の ビル・クリントンが勝った 当時、ロス特派員だった。 この展開は理解に苦しんだ。 州法と連邦法は違うと言うが、要は同じ事件で二度も裁いた。 もろ一事不再理に反する。 それに大統領が司法に介入して被告を有罪にしたのはもっとおかしい。 まともな国は 三権が分立している。 こういう干渉は排除される。 その後進性を突いた原稿を出したがボツになった 本社の米国通の曰くに 「米国は高度に発展した国家。 彼らがやる事に間違いはない」のだと。 首を傾げていたら ガザで米女子学生 アリサ・フラトーが自爆テロの巻き添えで死んだ。 米議会はそんな悲劇を生まないようにテロ支援国家訴追法を成立させた。 アリサの家族はこの新法でイラン政府を訴え、連邦裁判所は 2億5000万ﾄﾞﾙの賠償命令を出した。 イラン側は、テロ支援はともかく 「歴とした事後法だ」と指摘し、無視した 確かに申し分ないほど立派な事後法で、まともな国では起こり得ない話だ。 こう見ると 米国はやっぱりそれほどご立派な国じゃない ように思えてくる。 確かに世界が奴隷解放に向かい、ナポレオン戦争では農奴まで解放していた時期に米国は黒人奴隷をどんどこ入れ、先住民はどんどん殺していた。 日本人が近松の人情ものに涙していたころ、マサチュセッツのセーラムでは本気の魔女裁判が行われ、19人を処刑している。 同じ時代を背景にした ナサニエル・ホーソンの 『緋文字』も不義を働いた女 ヘスターを通してキリスト教の迷信に支配される無知な人々の姿が描かれる。 それはなぜか。 メイフラワー号で渡った 原米国人は宗教改革もそこから始まる教会離れも経験していない。 「暗黒の中世」をそのまま新世界に持ち込み、それに安住してきた。 だから黒人奴隷を使い、先住民を殺しても何のためらいもなかったのだろう。 その性根は変わらない。 世界が黒人奴隷を非難するとそうですかと 黄色い奴隷、苦力 (ｸｰﾘｰ)に切り替えた。 それでいいと思っている。 女性に対する姿勢も中世のままだ。 ずっと 「女は子を産む道具」 （Ｍ・サンガー夫人）でしかなかった。 だから州法で妊娠しにくい女の騎乗位を禁じ、夫婦が避妊具を使うことも犯罪とした。 とくに中絶は 「創造主が我々を創られた」 （独立宣言）から神に対する大罪とされ、法律で禁じてきた。 女性解放が叫ばれたのは戦後になってからだ。 多くの州で中絶が容認され、最高裁も リベラル派判事が多数を占めた 1973年、やっと中絶を合法とした。 それでも米国には中世が生きていて毎年のように中絶医が殺されてきた。 そんなとき大統領になった トランプはせっせと最高裁の判事を入れ替え、9人中 6人を保守派にした。 彼らは中間選挙前に突如として判例を覆して中絶禁止を判示した。 『緋文字』の世界から 300年。 ヘスターを先頭に女たちが営々と戦ってやっと勝ち取った自由がここにきて奪われてしまった。 中間選挙で トランプ共和党 がなぜ負けたか。 バイデンの無策は許せないが、トランプはもっと許せない全米の女を怒らせたことにまだ気付いてもいないからだ。 　　　「評論集」 へ戻る