ワル役人のしたたかさ  高山正之        変見自在 2004年9月16日

前に霞が関官庁の一つから講演を頼まれた。 公務員の倫理確立をテーマに話をしてくれという。 テーマには無理があるので断った。
役人とは 「たかる」 「くすねる」 「ちょろまかす」 で生きる犯罪集団をいう。 倫理観など、どこにもない。
  いい例が社会保険庁だ。
集めた年金から業務経費を出していいことになった途端、自分たちの官舎を建て、車を買い、物見遊山の海外旅行費から長官の交際費まで、
使いまくったカネは五十億円を超えた。 都心の官舎に住む共産党系職員は、年金の個人情報を持ち出して選挙運動に使ったらしい。
それでも逮捕されずクビにもならず、俸給も支払われている。
業者に仕事を発注すれば、原稿料名目で数百万円を取り返して裏金にしていた。
カネを迂回させ懐にするのは立派な公金横領だが、同じ役人仲間の警察も検察も立件する気はなく、世間の忘れるのを待っている。
ここまで腐った社保庁元長官、堤修三 が雑誌 「経済界」 で 「無駄遣いや情報漏洩は当然正さなければなりませんが」
原因は役所の機構にあるとしたり顔で言う。 自身の監督不行き届きや公金浪費には反省もない。
上がそうだから公金を迂回させていた横領役人も 「プールして職員のタクシー代や飲食費に充てていた」 ことのどこが悪いんかと悪びれた様子もない。
本来ならこういう犯罪は関係役人全てを首にして退職金も没収、その不実による損害があれば賠償させるところだが、
集団でやれば 「個人犯罪ではないから」 とかで立件されなくなった。
そうなれば倫理観のない連中だ。 すぐに増長する。 使い込みの半分を占めた官舎の建設がそれだ。
いつのまにか、職住接近官舎は 「役人の当然の権利」 になった。
それは都心の麻布を見れば分かる。 そこは宮様のお屋敷が数あったが、GHQが宮家を廃すると、跡地はみな役人の官舎に変わってしまった。
宮家だけではなく、都民の憩いの場、目黒の林試の森公園や白金の自然教育園の一角をちょろまかして官舎を建てる。
等々力不動の隣、多摩川を見下ろす景勝地も今は役人の官舎が立ち並ぶ。 官舎がうまくいったので、彼らはさらに増長し犯罪の幅を広げる。
新手の犯罪は能力詐欺、有為の人材を装い、民間に天下って不相応な待遇を得る詐欺行為だ。
これもうまくいき、天下りは今では官舎と同じに役人に当然ついてくるものになった。
しかし通産省上がりの 川口外相 を見ても分かるように、役人が有為であったためしは寡聞にして知らない。

社保庁でずっと前に長官をやった 下村健 も有為の人材をたばかった一人だ。
彼はまず船員保険会の会長に納まり、次に健保組合連合会に潜り込む。
ここは診療報酬問題で支払い側を代表する。 なぜこのポストを欲しがるかと言えば、医師会や歯科医師会との利害が絡む。 カネになる。
案の定、接待はしょっちゅうで、先日は日本歯科医師会が六百万円もってきた。 役人でよかったと思う一瞬だ。
しかしそれがバレてパクられる。 朝日新聞は、厚生省幹部に 「あんな闘ってくれた人なのに、日歯が憎い」 と語らせた。
いかにも日歯が悪質だったかのように聞こえる。 心憎いばかりの連携。 でも事実は天下り側が民間に強要して金をせびってきた。
収賄というからややこしい。 正しくは恐喝と呼ぶべきだ。 根っからのワル役人は、また名優でもある。

    「公が下僕」 に終止符を        
2004年9月30日
近代化を使命にした頃の役人には、まだ武士の生き様が残っていた。
殖産も興業も官が真剣な指導をしてきた。 事業が軌道に乗ると官業は民間に払い下げられた。 戦後になってから民間払い下げはさっぱりなくなった。
逆に官業が民間分野にのしてくる。 そのいい例が郵政事業だ。
大人しく郵便物を運んでいればいいのに、ヒト様の郵便貯金を勝手に使いまわして金融業に手を伸ばし、保険業もやれば、ホテル業にも進出する。
元々の郵便事業もうまみを探して、公務員の世襲化、いわゆる特定郵便局を開発する。 郵政省がそこまでやるのならと、厚生省は国民宿舎を始める。
国立公園などでは民間の開発は厳禁だが、役所なら自由に許可が出せるからいいところに建てられるのが強みだ。
郵政省も負けてはいない。 かって官業を民間に払い下げたが、この役所はその逆をやってのけた。
羽田空港でターミナルビルを運営する民間会社 「日本空港ビル」 を作り、そこには役人が社長で天下る。
今はそれに加え空港の駐車場会社を新設し、役人が天下って経営し始めた。

      
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