　　　日本だけが「誠実」な理由　　　　　武田邦彦　　　　　　2021/6/02

　女性が流した涙の意味とは。世界とは違う日本人が持つ「人生の目的」

日本は世界の主要国の中で、特別な国である。特に社会や政治、文化の中で「日本だけ」という特徴を持っている。それは、
　１）日本は唯一の「温帯の島国」で、自然がとても豊かで穏やかである
　２）日本は四面が海に囲まれて他国との種族の混合が少なく、食べるのに困っている人がいない
　３）日本は天皇陛下だけが実質的な身分で国民は全員が平等である
　４）外国は「支配層と被支配層」に分かれている
　５）日本人の人生の目的は、「みんなで働き、みんなで繁栄」であった
　６）外国人の人生の目的は、「支配層に入ること」であった。
　　　支配層がいるということは被支配層がその倍以上はいることを意味していたとまとめることができる。

つまり、自然環境や島国であるということから、「人生の目的」自身が大きく違う結果になったということだ。
なにしろ日本と大陸（中国、中東、ヨーロッパなどを指す）では「人生の目的」自身が違うのだから、細かいことはすべて異なっても不思議ではない。
高名な数学者の岡潔先生はその著書で、中学校を出て都会の工場でトランジスタの製造をしていた若い女性が、
製造ラインに着くとすぐトランジスタの組み立てに夢中になり、無心で組み立てをするということを書いておられる。
そして、しばらくしてトランジスタの製造が改良され、新しい方法になると女工さんはそれまでの古い組み立てとお別れになるのを悲しみ、涙を流すという。
日本人が「物」に対して無心になり、そこに魂を感じるのは「日本人」だからであり、
人生の目的が「人、モノ、生物、みな同じ」という自然に溶け込んだ感覚を持っていること、その原因は日本人が岡潔先生の言う
「第二の心」を持っているからであると説明されている。

この「第二の心」というのは著者の言う絡合であり、伝統脳である。
女工さんたちにとっては競争相手は同僚の女工さんであり、出世するならチーフか、あるいは監督であるが、そんなことには関心もない。
彼女たちは工場で無心になってトランジスタを組み立て、その無生物に感情を込め、一所懸命に作業をする。
そのうち、彼女たちは組み立てられるトランジスタに愛情を感じ、それが旧式となって自分たちの手を離れる時に涙を流すのだ。
そして彼女たちはじきに成人となり、故郷に帰って結婚し子を持つのだが、その時にも同じ心で家庭を築き、子を育てるのである。
そして自分が育てた家庭や子供がやがて自分の近くから離れていく時、彼女たちは涙を流す。
まことに理にかなった人生である。

　　錯覚から目を覚ませ。日本人が憧れているのは「人を騙し生き抜く世界」

これに対して、大陸ではそうはいかない。
ギリシャ時代は市民と言われる階級、そこにはソクラテスとかアリストテレスといった哲学者や科学者もいたのだが、彼らは人口の５% 余りにすぎず、
国民と言われる人の９０% は奴隷だった。
それは中世から近世、そして現代にいたるまで変わらない。
フランスにブルボン家があった貴族社会の時代では、第一身分と言われた聖職者は全人口の０．５ %、
その次の第二身分の貴族は人口の１．５% で合計で２% だった。
もちろん王族などはごく少数だから貴族の統計の中に入っている。そして第３身分、つまり平民が 98% を占める。
このような社会で幸福な人生を送ろうとすると、１００人中２人に入らなければならないから、競争は熾烈になる。
それは、現代まで続いていてアメリカの富裕層というのは明確には定義されていないが、超富裕層が 1% ぐらい、富裕層が 5% 程度と言われている。
現代でも２０分の１に入らないと毎日の生活は不安定になるのだ。
だから大陸は「人を蹴落とすこと」が人生の最初の目的になる。学校では成績をつけ、長所を探る。
自分の長所、つまり他人より優れている特徴を早く見つけて、それを育てる。それが教育であり、人生である。
大陸の人は自然と人間関係が厳しいから、ゆっくりしているわけにはいかない。
著者の言う「大脳皮質」をフルに動かしてできれば２５歳までに勝ち組に入り、４５歳で引退して仕事をしない生活に入ることが夢である。
労働は苦痛であり、原罪を償うための仕方ない活動であり、自然は人間が征服するものである。
このような社会では２％の支配グループに入る必要があり、そのためには９８％の人を騙して自分が抜け駆けしないとならない。その標準的な方法は、
　１）自分の力を伸ばして多くの人より優れた状態にする
　２）そのうえで自分のすることがいかに被支配層にも有意義であることを強調する（ウソをつく）
　３）そのウソがばれないように注意して支配層としての立場を守る　ということになる。
背が高く、白い肌に青い目、愛想のよい笑い顔・・・そんな人たちがこんな心を持っているとはトランジスタ製造工場の女工さんは思いもよらない。
本当のことを知ったら「まさか！」と驚くだろう。それが現在の日本人の錯覚なのだ。

　　　「TVが伝えない真実」へ戻る