　　　　地球が温暖化してシロクマはいなくなるのか？　　　武田邦彦　　　　2020/7/08

　　少女をも泣かすＮＨＫのウソの歌。シロクマが住む北極の現状

現代のテレビや新聞がいかにウソを平気で言うのか、そのひとつの例が、20年ほど前に盛んに報道された「シロクマがいなくなる」という話だった。
当時、ＮＨＫが子供向けの「みんなのうた」で『ホッキョクグマ』というのをやった。北極の気温が上がってシロクマが「暑いよ、暑いよ、氷の国を返して」と叫ぶ。
最初に午後 4時ごろのＮＨＫを見た時には質の悪いウソだからと思っていたが、ネットで３歳の女の子が（投稿したのは父親）、「シロクマさん可哀そう」と
泣いていたということを知って、「ひどいことをするものだ」と思った。ウソを承知で放送して女児を泣かすというのはかなりあくどい。

ウソを言って他人の頭を狂わせても、今は相手に具体的な金銭上の損害を与えない限りは（サギが立件されなければ）現在の刑法では罪にならない。
それに付け入ってＮＨＫが子供にウソをついているのだが、金銭的な損害より子供の心を傷つける方がずっと罪が重い。
普通の神経ならＮＨＫもわかるはずだが、なにしろ「既得権益」と「自分の職業」を強く意識するあまり、ウソの歌で泣く少女の魂には頭が至らないのだろう。
中学校や高等学校の理科で、「氷と水が共存する場合、温度は０℃から変わらない」というのを習う。相平衡の基本的な現象だ。
当時、北極の冬は全面結氷だが、夏は氷が融けても海水面のうち 40% ぐらいが氷という状態だった。
でも、水と氷が共存するのだから、気温は 0℃ を大きくは離れない。これは本当に初等の学問で基本的な現象のひとつだから、学校で充分に習う。

理科系の人が少しでもいれば「それはひどい」と指摘するはずだが、それをＮＨＫが白昼堂々と放送するのだから本当にびっくりしてしまう。
だからもちろんシロクマは「暑い」とは言っていないし、具体的にシロクマの数の調査が行われているが、論文を見ても数は変わっていない。
原理的にも間違いで、調査をすればすぐわかるのに、テレビも新聞もウソを言うのが平気というのを通り越して、
「ウソを言って視聴者を騙し、精神的錯乱に陥れて儲ける」という新手のサギを 1990年から始めたということだ。
これがシロクマだけならまだテレビを見ている人も動揺しないが、次々とウソを聞き続けると不安になったり、情緒不安定になったりする。
そうなると心配で心配で、つい余計にテレビを見たり、新聞を買ったりする。それが狙いだ。
当時は、週刊誌もその延長線上でよく売れた時代だった。

　　分かっていても言わないＮＨＫサギ。「観測史上最高雨量」の本当の意味

最近のコロナウィルスは別格だが、日常的にも同じ「脅し」がつづいている。
そのひとつが「観測史上、最高の雨量」なる表現だ。雨量はアメダスと呼ばれる観測所で測定されているが、全国のアメダスの設置数は約 1300 である。
「常識的」には「観測史上、最高」というと日本でもっとも多い雨量を超えたということだが、それより狭い地域で表現することもある。
たとえば「7月の九州では最大」というように地域と時期を特定する場合もある。

しかし、今のＮＨＫの「観測史上最高」というのは、ある一か所のアメダスで観測し始めてからもっとも多い雨量を示した時間や日にちを言う。
アメダスの観測網が整備されたのが 1979年だから、「観測の歴史」は 40年ほどである。
つまり、まず「観測史上」というのは 40年間で最大ということだから、テレビのアナウンサーは「観測史上最高」と言いつつ、
並行して「数十年に一度の豪雨」と言ったりしている。
さらに奇妙なのは、一か所のアメダスごとに「新記録」と言うので、1300か所あるアメダスのどこかが「最高値」を示すと、
４０年にわたって毎年「観測史上最高記録」が出る。事実、ここ 10年ばかり、毎年「観測史上最高記録」を出しているので、
聞いている方は「なにか最近、気象が荒れてきたのかな？」と錯覚する。
「どこのアメダスが１時間 100ミリを観測した」と言うか、「その地方では 40年の観測では初めて」と表現するのが良心的だろう。

さらに故意の騙しがある。
それは多くの人が聞いているセリフ「1か月分の雨が 1日で降った」という表現が定着していること。
実に不誠実な人が気象庁やＮＨＫにいるものである。雨というのは、毎日毎日降っているものではない。
降ったり止んだりの日もある。 1か月に雨が降っている時間を合計すると平均で 3日になる。
つまり「１か月分の雨」というのは「３日分の雨」ということであり、「普通の雨の３倍」とも言える。
でもそう言うと国民が驚かないので、大げさに言う。

私がテレビのニュース番組に出ている時によく気象予報士に「それは不誠実な言い方だ」と注意をするので、やがて降板させられた。
なぜ、正直に言わないのだろうか？
ホッキョクグマといい、雨量といい、脅すだけ脅すということだが、昔の気象のような「理科的な現象」はお父さんが知っていて、
「そんなことはないよ」といった時代ではない。
誰もが知ることのできる時代になったのは良いことだが、それを逆手にとって子供やお婆さんを脅すのはよくないと私は思う。
テレビの人、科学の教育を受けた人が早く誠実になることを期待する。

　　　「テレビが伝えない真実」へ戻る