社会党の 加藤シズエの罪　 占領下の闇を今こそ暴く時　　　高山 正之　　　　　　　変見自在　　　　2024/7/28 昔はおかしな子を産むと大変だった。 姉の縁談は壊れ、普段の付き合いもなくなった。 村八分にされた。 昔はそうやって悪い種を絶やしたとゼミで行った山里で聞かされた。 それに科学的根拠を与えたのは チャールズ・ダーウィンと従兄弟の フランシス・ゴルトンだった。 ゴルトンは 「天才は遺伝する」と主張して 「優生学」を打ち立てた。 遺伝と交配を工夫すれば優秀な子孫が作れ、逆に悪いタネは人為的に排除できるのだと。 医学界は興奮した。 とくに アーリアンは最高と思い込む ヒトラーのドイツと似たような発想をする 米国が国家ぐるみで 「素敵な人種づくり」に励んだ。 日本でも優生学に刺激されて人種改造論が流行り、昭和13年、民族優生保護法案が国会に提出された。 しかし議論は進まなかった。 例えば精神異常者の断種も 「狂人と天才は紙一重という。天才まで排除してしまわないか」とか。 精神薄弱者についても揉めた。 同じ時期、山下清の貼り絵が注目され、早大で展覧会も開かれていた。 貴族院では悪いタネを絶やす不妊や断種は 「だれが手術に連れていくのか」も糺された。 父母が強いるなら 「その子に考の道をどう説くのか」 の指摘も出た。 海外の事情も伝わってきた。 米国では精神異常の治療にイェール大教授 ジョン・フルトンの提唱した前頭葉白質切截、いわゆる ロボトミー手術がもう何千件の症例を出していた。 中に ジョン・Ｆ・ケネディの妹 ローズマリーがいた。 お転婆過ぎる、少し淑やかにという理由だけで手術して廃人になった。 ケネディ家の隠された秘密だが、その危険性もとことん審議された。 欧州の社交界の花だった女優、田中路子が独俳優 ビクター・デ・コーヴァと結婚する話も届いた。 祝福された恋には重い話がついていた。 二人の結婚を知った ヒトラーが 「劣等民族の血がアーリアンの血に混じるのは好ましくない」 と花嫁の不妊手術を婚姻の条件とした。 そのころの独の 優生保護法は年間数万件の 断種手術や 安楽死を実行していた。 ユダヤ人絶滅の一手段にも使われていた。 日本の国会審議はそれを受けてヒトラー的な要素を排除し、法案の名も 「民族優生保護法」から 「国民優生法」に改められた。 また 独、米で行われている 「精神病院や刑務所などの長の判断による断種や中絶」と同じ趣旨の「強制申請」も除外することで昭和16年6月、成立した。 審議に入って実に3年もかかった。 　戦後、マッカーサーが オーウェルの 『1984』 より過酷な 検閲と プレスコードを敷いて新聞を黙らせ、自分で書いた憲法を押し付けた。 この独裁者はまた国民優生法に替わる米国版の優生保護法も強制した。 GHQの 代理人は 社会党の 加藤スズエだった。 戦前、渡米して 「避妊と中絶の自由」を説く マーガレット・サンガーに師事し、帰国後はヒトラーと同じに 「中絶の自由」と「悪いタネの断種」を唱えてきた。 それが 「日本の人口を減らす」マッカーサーの狙いと合致した。 シズエは GHQ推薦で国会議員に当選して米国版優生保護法の推進役になった。 法案の中身は国民優生法と違って中絶も 断種もすべて 制約なし。 同法が留保した 「刑務所長らが好きに中絶や断種を決められる」第6条も解禁された。つまり本人や肉親の承認なしに実施できるようになった。 シズエはその趣旨説明を国会で行ったが、先日の 朝日新聞には 「批判的な議論はなかった」 とあった。 それはそうだ。 マッカーサーに議員にしてもらった連中が異議を挟めるか。 かくて 米国版新法の下で人権無視の手術が横行し、人口も減っていった。 岸田が謝っていたが、咎は マッカーサーと真実を伏せ続けた 新聞にある。 占領下の闇を今こそ暴く時ではなかったのか。 　　　「変見自在」 へ戻る