見知らぬユダヤ人　　　　　高山正之　　　　　　変見自在　　　　2023/11/22 ユダヤ人と パレスチナ人というか アラブ人はなぜ深刻にいがみ合うのか。 新聞は 国連が パレスチナの地に イスラエル建国を勝手に認めたのは発端と書く。 怒った パレスチナ人と アラブ諸国が イスラエルを攻めにかかった。世に言う 第１次中東戦争だ。 中東戦争はその ４次まで繰り返されるが、イスラエルが勝ち、パレスチナ人を ガザ地区などに封じ込めて今日に至る。 しかし確執の根はそんな手近じゃない。 歴史を遡ると旧約聖書に行きつく。 　すべての民の父と呼ばれる アブラハムには実は子がいなかった。 妻 サラも気にして 80歳の時には自分の下女 ハガルを夫にあてがい、生まれたのがアラブ人の祖となる 「イスマエル」 だった。 サラは面白くない。 それで神 ヤハウェはサラに妊娠を許し90歳のころ 「イサク」 を産んだ。 彼が ユダヤ人の祖 となる。 つまり アラブ人と ユダヤ人は同じ セム族の 異母兄弟 ということになる。 だが 神は イサクの方を贔屓して カナンの地も イサクに与えてしまう。 サラは勝ち誇り イスマエルと ハガルを追い出してしまう。 アラブ人と ユダヤ人に確執があるとすればそれは 神と サラが悪い。 そしてイサクの子孫モーゼの時代。 約束の地 カナンに至ったユダヤ人たちはそこの先住民部族を皆殺しにしていく。 ミディアンびととの戦いでは 「子種を持つ男は子に至るまで殺せ。 男を知った女（人妻）も殺せ。 男を知らぬ女は神からのお前たちへの贈り物だ」 とモーゼは言っている。 今の ガザにいた パレスチナ人の祖先 ペリシテびともやっつけている。 ダビデがペリシテの大男ゴリアテを石礫で討ち取ったのもこのときだ。 しかし カナンの地はやがてローマ帝国に侵され、ユダヤの民は追われて世界に散っていった。 世に言う ディアスポラ だ。 そんなユダヤ人たちが近年、カナンの地へ里帰りしたいと言い出した。 シオニズム運動という。 アラブ人とユダヤ人はその昔、神が仲違いさせたけれど、ヨルダン国王は戻ってくる兄弟を歓迎していた。 血は水より濃かった。 かくて イスラエル建国に先駆けてロシアや東欧から多くのユダヤ人がパレスチナの地に帰ってきた。 出迎えたアラブ人は頸を傾げた。 笑顔も消えた。 帰ってきた兄弟はどう見ても セム系ではなく 白人そのものだった。 「その通り。 実は白人なのだ」と思想家 アーサー・ケストラーは言う。 昔コーカサスにあった ハザール王国はキリスト教国とイスラム勢力の争いに巻き込まれないよう ユダヤ教に帰依した。 しかし王国はやがて滅び、民はロシアや東欧に流れていった。 それが「白いユダヤ人 アシュケナージ」だとケストラーは言う。 対して本来の セム系ユダヤ人は セファルディ と呼ばれ、今のユダヤ人の １割にとどまる。 残りの ９割は ロスチャイルドから ネタニヤフまでみな白いユダヤ人が占めている。 アラブ人にしてみれば見知らぬ白人が 「兄貴、いま帰ってきたぜ」とか偉そうに言って引っ越してきたみたいに見えた。 お前らは セム系じゃないだろうと糺 (ただ)すと、白いユダヤ人は 「ユダヤ教を信ずる者はみなユダヤ人なのだ」と煙に巻く。 アラブ人はそれを詭弁と見る。 白人の亡国の民がディアスポラの末裔を装ってパレスチナに勝手に国を建てようとしていると。 　譬えて言えば米大陸にきた白人だ。 彼らは先住民をやっつけて勝手に米国を建国した。 それに似る。 そうすると ハマスが入植者を襲って血祭りに上げたのもインディアンが開拓者を襲う図に重なる。 イスラエルが猛爆撃で報復するのはカスター将軍を出してインディアンを残忍に討伐する図になるか。 ガザ紛争で仲裁役の米国の歯切れが悪い。 もしかしたら自分史を見ているみたいで気が引けているのかもしれない。 　　　「偏見自在」 へ戻る