リンカーンの罪　　 高山 正之　　　変見自在　　　　　2022/3/01 16世紀、今の中米にやってきた スペイン人はそこに棲む インディオを何の躊躇いもなく殺した。 それは カナンの地に入った イスラエルびとの振る舞いと同じだった。 彼らは先住の ミディアンびとをただ制圧するだけではなかった。 「（子種を持つ） 男は赤子に至るまで殺せ。 （孕んでいる可能性のある） 人妻も殺せ」 とモーゼは命じた。 民族淘汰の形だった。 「ただ処女は神からの贈り物。 だから殺さず楽しむがよい」 スペイン人もモーゼの言葉に従い、インディオを皆殺しにした。 ハイチのある イスパニョラ島には 300万先住民がいたが、金鉱で酷使し、気付いたら 200人しか残っていなかた。 後からこの無人の島に来たフランス人は 黒人奴隷を入れた。 ハイチが黒人の国になった理由だ。 スペイン人はモーゼに従い処女も弄んだ。 生まれた混血児は メスチソと呼ばれ、例えば メキシコでは人口の 6割を占めている。 北米に来た 英国人も モーゼの言葉に従った。 メイフラワー号できた 清教徒は ワンパノアグ族の厚意で冬を越し、トウモロコシの栽培も教わった。 学び終わると彼らの土地を奪い始めた。 酋長が拒むと モヒカン族に武器を与えて ワンパノアグを叩きのめした。 酋長は八つ裂きにされ、その頭は 20年間もプリマス港に晒された。 酋長の家族は奴隷商人に売られた。 英国人は チェロキーや モホークも手懐け、その他インディアンと戦わせた。 大方を処分すると チェロキーを オクラホマに追放した。 最後に残った スー族は領土を取り上げられ、代償のはずの食糧配給も止められて暴動を起こした。 リンカーンはそれを待って スー族に宣戦布告し大軍を投じて殲滅した。 38人の酋長は巨大な処刑台で一斉に吊るされた。 生き残りの スー族は ミネソタ川の中州パイク島に隔離され、大方がそこで死んだ。 カナダは同化政策と称して先住民子弟を寄宿舎に入れたが、中はアウシュビッツだった。 モーゼの言う 「子種を持つ子供」は躾の名で殺された。 先日、そんな寄宿舎の跡地から 751人分の子供の骨が見つかった。 米大陸でどれほどの先住民が殺されたか。 3000万は超える甚大なホロコーストだったはずだ。 その淘汰には 歴代米大統領が関与した。 中で リンカーンはインディアン戦争最後となる スー族撃滅に GOを出し、酋長の一斉処刑も彼が命じた。 興味あるのは、その 1週間後に彼は 黒人奴隷解放を宣言している。 　黄色は殺せ、黒には自由を。 この差は何か。 答えがないまま先日のニューヨーク・タイムズ （NYT）はニコル・ハ ンナジョーンズの 「米国史は 1776年ではなく 1619年に一隻の奴隷船が入った日に始まった」という論文を載せた。 以降、「米国史は黒人迫害を軸に紡がれた」とするキャンペーンを展開、ジョージ・フロイド事件もあって米社会は大混乱に陥る。 人権運動 「BLM」は リー将軍だけでなく リンカーン像も壊し、略奪も暴行もやり放題だが、警察も手を出せない 混乱を生んだ NYTはなぜか ピューリッツァー賞を貰い、キャンペーン報道は 高校副読本にもなった。 同紙の社説にはひたすら 黒人残酷物語 が載せられ、無名だった黒人論説委員の Ｊ・ブイは今や売れっ子だ。 先日も 「奴隷船から 200万人も海に捨てられた」と告発していた 確かに沿岸の監視船に捕まる前、鎖に繋いだまま海に投棄したケースは 結構あった。 しかし黒人奴隷は生かして売るのが目的だ。 対して黄色の先住民には生かす意図は窺えない。 米国史はまさにその先住民殺しから始まり、それで不足した労働力を補うべく黒人奴隷を入れた。 こっちが黄色だから言うわけじゃないが、政治的意図で黄色殺しを省くのはいかがなものか。 　　　「変見自在」 へ戻る