　　　　汗顔の漢江の奇跡　　　　高山正之　　　変見自在　　　　　2021/6/27

「憲法９条などやめちまえ」と最初に言ったのはその憲法を押し付けた当のマッカーサーだった。
発言は昭和 26年1月1日のこと。朝鮮戦争が起きて半年という時点だ。
戦場では米兵がバタバタ死んでいる。何で我々白人が韓国人如きのために血を流すのか。
そんなときはフィリピン兵や支那兵を矢面に立たせるのが形じゃないのかと米政界はマッカーサーをなじった。
彼は言い訳する。「蒋介石の軍は台湾に逃げてしまったし、フィリピン兵はもともと使えないし」
手許に強い日本兵がいるじゃないか。
「それが新憲法で軍隊を捨てさせたので」
バカかお前は。何とか言いくるめろとなって、彼は年頭の辞で「（共産主義という）悪の脅威に日本もともに戦おう」と言った。

吉田茂は「米軍の盾になって戦いたいが違憲だからダメ」と笑って断った。
ために米軍の戦死者は３万６千人に上った。日本に公然たる拒否権を与えてしまったマッカーサーは間もなくしてクビになった。
朝鮮戦争が終わると入れ替わるように仏領ベトナムがきな臭くなった。
今度こそ日本軍を投入したい。
昭和28年秋、米副大統領ニクソンが訪日して「米国は日本に非武装を強いる間違いを起こした」と GHQによる新憲法押し付けを詫びた。
だから憲法を改めて軍隊を持つよう促したが、吉田茂は「いずれそうするが今ではない」と断った。
翌年、ディエンビエンフーの仏軍拠点が落ち、数年を経ずに米軍を巻き込んだベトナム戦争が始まった。
米国は出てくる気のない日本軍に期待するのをやめて、韓国軍を代用することにした。

一方、白人の盾を拒み続けた日本には懲罰として破綻した韓国経済の面倒を見させることにした。
実際、当時の韓国経済は酷いものだった。
日帝支配のおかげで工業化の道が開けたのに南北で勝手に戦争を始め、折角の工場や鉄道などインフラ施設までみな灰にしてしまった。
残ったのは「矯正できない風土病のような腐敗政治と何百年も続く固陋な因習に塗(まみ)れた経済」だと米大統領経済顧問のウオルト・ロストウは診断している。
外貨を稼げるのは僅かに売春婦だけ。「この国が独自に工業化するなど悪い冗談にしか見えない」と匙を投げていた。
で、米国は朴正熙にベトナム派兵を命じ、日本にはライシャワーを通じて日韓交渉を再開させた。
昭和40年、日本は韓国へ総額８億ﾄﾞﾙの経済援助を呑まされ、ライシャワーは加えて日本が半島に持つ国有及び私有財産全てを放棄させた。
今のカネで７兆円にも上る。
これに加え、日本は製鉄、セメント、造船から建築まで工業国家に相応しいすべての技術も供与した。
その成果が世に言う漢江 (ﾊﾝｶﾞﾝ)の奇跡で、以降、韓国経済は史上初めての右肩上がりを記録した。

そんな韓国を30年ぶりに訪ねたロウトウは「この国のどこにこんな底力があったのか」と驚愕。
「韓国の工業化は有り得ない」とした前言は間違いだったと訂正した。
いやロストウは間違ってはいない。この国は「日本に縋 (すが)る」という特技があるだけで、彼の見立てた「韓国の本質」は正しい。
いい証拠がある。韓国企業が日本の指導も受けずに漢江に聖水大橋を架けたが、築15年で崩落。通学バスなどが川底に落ちて多くが死んだ。
パラオでも韓国企業施工の橋が落ちて死者を出している。世界には能力を伴わない工業化もあるのだ。
先日のソウルの徴用工裁判で「もう日韓条約で終わった話」「日本にたかるのはやめよう」というまともな判決が出た。
そしたらハンギョレ紙が「漢江の奇跡も日本のカネのおかげというのか」と判決に文句をつけた。
それは確かに間違いだ。カネだけでは奇跡は起きない。日本から技術と指導を貰って初めてできたことを忘れてはいけない。

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