　　生成 AIの登場から猫も杓子もデータセンター建設　　　　　宮崎正弘　　　　　　　　2025_12_19

　　合従連衡、呉越同舟、相互不信　それでも連携。
ＡＩ企業同士の熾烈な開発競争は、米国内だけの問題ではなく、中国の凄まじい追い上げと競合ライバル企業同士の内ゲバ。
インドの着実な存在が顕著となり、日本はお呼びではない？
日本、台湾、韓国もＡＩ戦争においては重要なプレィヤーである。
AI業界は未曾有の戦国時代に突入している。
フェイズが変わったのは生成 AIの登場からで、さらなる発展にデータセンター建設が急がれる。
すると関連する全社が「データセンターの建設を急ぎます」となった。まるで金太郎飴だ。

　アマゾンは、チャット GPT開発の OpenAIと 100億ドル以上の投資を交渉している。
Open AI は最大の胴元がマイクロソフトだが（27%株主で、Microsoftが独占販売権を確保している）、
先行き投資で手元資金が涸れたためオラクルとエヌビディアの融通手形相関図のような仕組みを作り、各々 1000億ドルの出資を仰いだ。
OpenAIの評価額は5,000億ドル前後だが、今後 4年間で1,000億ドル以上の資金を費消する予定である。
競合アマゾンからの投資は、OpenAIが大規模なクラウドコンピューティングへの取り組みに資金を提供するのに役立ち、
AI分野におけるアマゾンの役割を拡大するウィンウィン戦略に基づく。
OpenAIは、今後 7年間で AWSからサーバーレンタルを受けるに 380億ドルを費やすと発表し、
AWSは OpenAIが人工知能の開発に利用する少なくとも 5つのクラウドプロバイダーの1つとなる。
Aws はエヌビディアの特殊半導体に匹敵する AI 半導体 Trainium 3 を開発し自信満々である。
アマゾンのトレイニウムは明らかに Nvidiaと競合する。

　OpenAIは、独自のデータセンターの開発に数十億ドルを投資し、他社からサーバーを借りる可能性もあると述べている。
今度はマイクロソフトが、ライバルの AI開発会社 Anthropicへの投資を決め、「同社のAIを利用することに合意した」と発表した。
敵味方入り乱れての乱戦である。
　LLM （大規模言語モデル）には膨大な量のデータが必要である。
オンライン検索、販売プラットフォーム、ソーシャルメディアプラットフォームなどの既存企業は、自社のデータ資源を活用できるが、
加えて、オンラインデータ（時には機密データ）の積極的かつ無許可のスクレイピングが頻繁に行われ、
アクセス、補償、プライバシーをめぐる訴訟に発展するケースが多い。
スクレイピングとは、ウェブサイトやデータベースから自動プログラムを使って特定情報を自動的に抽出・収集・加工する技術を意味する。
市場調査、価格監視、分析、AI学習データ作成など多岐にわたる分野で活用されており
著作権侵害や不正アクセス、サーバーへの負荷など法的なリスクがある。

　　精度を確保するためにデータクリーニングを行うことは困難である
ほとんどの AIモデルは不完全なデータに依存しており、その精度を確保するためにデータクリーニングを行うことは困難である。
AIモデルは、データ駆動型の調査、ジャーナリズムと執筆、旅行計画、コンピューターコーディング、特定の医療診断、検査、
そして標準的な顧客サービスへの問い合わせ対応といった日常的な管理業務や特定の労働集約型タスクを代替することができる。

AIへの設備投資は 2030年までに 5兆～7兆ドルに達すると予想されている。
最新の資金調達調査に依ればAIスタートアップ企業の評価額は 2兆3000億ドルで、2024年の 1兆6900億ドル、2020年の 4690億ドルから増加している。
しかし、AIが利益を生み出し、収益を高める可能性は基本的に疑問視されている。
土地、建物、急速に減価償却されるチップ、そして電気・水道の運営費といった現在の年間投資をカバーするだけでも、
収益は現在の年間 150億ドルから 200億ドルから 20倍以上に増加する必要がある。
十分な利益を上げるには、1兆ドル以上の収益が必要になるかもしれない。

げんに Microsoftの Windowsと Officeは、商用および消費者向けの収益を合わせて1,000億ドル未満しか生み出していない。
8億人のユーザーのうち約 5%が Chat GPTの利用料を支払っている。　

Chat GPTの親会社である Open AI は 2025年上半期に 43億ドルの収益を上げたが、
営業・マーケティングに 20億ドル、株式報酬に 25億ドル近くを費やし、78億ドルの営業損失を計上した。

　　不確実性の最たるは中国だ。
DeepSeek、Moonshot、Bytedance、Alibaba といった中国企業は、より安価なモデルを開発しており、
とくに中国が好むオープンソース設計は、独自技術に多額の投資を行ってきた企業の収益を圧迫する可能性がある。
必要な電力と水の供給も、収益の制約となる可能性がある。
全体主義国家のメリットを活かせる。土地は一方的に接収すれば良い。

　米国の AI 企業の資金調達パターンは興味深い。
マイクロソフト、Meta、Alphabet、Oracle など、オンデマンドのクラウドコンピューティング、ストレージ、ネットワークサービスを提供する
大規模データセンターを構築および運用する企業が、ベンチャーキャピタル投資家とともに資金の多くを提供している。
これらの企業は現在、営業キャッシュフローの約 60% を設備投資に費やしており、その大部分は AI プロジェクトのサポートに充てられている。
オラクルは Open AI にクラウドコンピューティング施設を提供する取引を発表すると、株は忽ち 25%上昇した。
しかしデータセンターは存在しておらず、建設する必要がある。
オラクルの純負債は 1,000億ドルを超えており、データセンターの資金調達には大幅な増加が必要となると、
オラクルの債務不履行に対する保険費用は急騰し、既存債務の価値と将来の債務コストに波及する。
オラクルの信用格付けは、BBB（低投資適格）から、非投資適格またはジャンク債等級に引き下げられる可能性がある。

　1990年代の通信・光ファイバーバブルでは、投資家は必要な容量を大幅に過大評価していた。
「ドットコム」と名が付けば詐欺師の企業にも個人投資家ばかりかファンドが投資し、株価は狂乱し、そして多くが倒産した。
皆が見ていた夢は幻影だった。
現在、光ファイバーの配線済みまたは使用済みの容量の割合（その多くはドットコム・ブーム期に設置されたもの）は約 50%で、
世界平均のネットワーク利用率は 26%だ。つまり無駄な投資を競い合ったのだ。
ドットコム・ブームの終焉に伴い、マイクロソフト、アップル、オラクル、アマゾンの株価はそれぞれ 65%、80%、88%、94%下落し、
2000年のピーク値まで回復するまでにそれぞれ 16年、5年、14年、7年を要した。
経済は減速し、経済活動を維持するために政府の支援と当時としては歴史的に低い金利が必要となり、
住宅ブームが勃発し、返済能力のない人にも住宅ローンを貸し付けた。
やがては 2008年のリーマンショック、金融危機へと繋がった。

　　インドも存在は大きい
インドでも、大手IT企業からの投資が急増している。
Amazon は、AI を活用したデジタル化を推進するため、2030年までに 350億ドルを投資すると発表した。
Microsoftは、インドの AIエコシステム強化のため、2029年までに 175億ドルを投入する。
マイクロソフトのサティア・ナデラ CEO がインド訪問中、これまでの 30億ドルに続く「インドにおける過去最大の投資」を発表した。
同社の新データセンターは 2026年半ばに稼働予定で 2030年までに 2000万人のスキルアップ目標を倍増させると豪語した。
10月には、Google がインドに新たな AIデータセンターを建設するために 150億ドルを投資すると発表し、総額は 675億ドルに達した。
さらに、Intel もタタ・グループの新たな半導体製造計画を支援するとしている。
Meta もインドにデータセンターを建設することを検討しており、このプロジェクトは同社の野心的なウォーターワース海底ケーブルと連携する可能性がある。
ウォーターワース・プロジェクトは Metaの 5万キロメートルに及ぶ巨大な海底ケーブルシステムで、
2030年までに米国、インド、ブラジル、南アフリカを結ぶ世界最長のケーブルとなる予定だ。

Apple にとって、インドはすでに主要な多角化拠点としての役割を果たしており、現在 iPhoneの 20%以上がインドで製造されている。
Foxconnと Tata Motors による委託生産も生産能力の増強中である。
インドは旺盛な国内需要も示しており、出荷台数でも米国、日本、中国に次ぐ世界第 4位の iPhone市場となった。
インド人は数学に強いとされ、500 万人を超える IT プロフェッショナルが存在するのは他国にない強みである。
数年前、インドは不安定な中国市場の代替候補（チャイナ・プラスワン）として挙げられていたが、
習近平政権は多くの外国テクノロジー企業の撤退に慌てて規制緩和、一部撤廃に踏み切った。
にもかかわらずウクライナ戦争の長期化、中国のロシアへの接近、そしてロシアとその同盟国に対する西側の制裁強化により、
中国は再び「リスクの高い投資先」となった。
逆にいえばインドに好機の窓を開いたと言える。

　トランプは米国で就労する ITプロフェッショナルに、とくにインド人エンジニアに対して Hー１Bビザの取得に 10万ドルを課した。
アメリカ人の雇用を奪っているというのだが難癖に近い。
するとどうなるか。
同じ雇用のあるインドへ帰国するだろう。
このような状況下では、インドにおける大手 IT企業の投資は、母国での採用を容易にし、移民のポジションを求める人々の切実な欲求を緩和させる。

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