　　　米国の生成 AIが、いつのまにか中国のスパイに悪用されていた　　　　宮崎正弘　　　　　2025_12_08
　
AI企業「アンソロピック」が 100億ドルをつぎ込んで開発した生成 AI技術が邪悪な国のスパイ活動に転用されていた。
中国の準国家機関が、民間企業を装い、アンソロピック社の生成 AI 「クロード」を兵器化し、
世界数十の政府、防衛企業、テクノロジー企業を標的としてスパイ活動を自動化していた。

この由々しき時代の出来に米国議会は、アンソロピックの CEOを召喚し、AIを活用したサイバー脅威に関する証言を求めた。
アンソロピックは元オープン AIのダリオ・アモディが設立し、アマゾンが 80億ドル、グーグルが 20億ドルを投資した。
汎用 AI、大規模言語モデルの「クロード」を公開し急成長した。
公開したのだから、こうなることは分かっていたのに、案の定、中国のスパイに悪用されていた。
アンソロピックの「クロード」は、大規模言語モデルを用いた対話型生成 AIで 2023年3月に一般公開され、以後もバージョンアップを続けている。
オープン AIの「チャット GPT」、グーグルの「ジェミニ」、X－AIの「グレック」などと競う最先端の生成 AIである。

　　ちょっと説明が必要だろう。
「チャット GPT」は、オープン AIが開発した対話型生成 AIサービスで、自然な文章で質問に答え、
或いは文章作成、要約、翻訳などの知的作業をこなす AIツール。
大規模言語モデル（GPT）を基盤に膨大なデータから学習しており、業務効率化や、個人の情報収集・創作活動に広く活用されているものの、
情報の正確性には疑問が残り、同時にセキュリティに注意が必要と警告されてきた。

ジェミニは、グーグルが開発しテキスト・画像・音声などを統合的に扱う次世代 AIで、高度な対話や情報検索、
文章作成、要約、画像生成などを、グーグルの検索やユーチューブなどグーグルのサービスと連携しながらのチャットサービスである。
特色はネット一般からではなく一貫してグーグルが情報源である。

X－ AIのグレックも似たようなアプリだが、質問への回答、問題の解決、幹部会議などを支援する AIアシスタント。
Xユーザーに限定されて利用できる。
グロックには、x AIの最先端の大規模言語モデル（LLM）が搭載され、ほぼすべての質問にユーモアを交えるので、
その型破りな性格のユニークさに人気がある。

　　善意の発明が無料で公開され、悪魔がつかった　
2025年9月に中国から流出した一連の文書は、中国が「パートナー」と呼ぶ外国政府に対し、統治モデルを組織的に支援し、
当該国の国民支配に役立てていた。
上海に拠点を置くハッキング請負業者「アイスン」から流出したファイルの分析など、これまでの研究は、
中国がデジタル・シルクロードのパートナー国のネットワークをどのように監視し、侵入しているかを検証してきた（China Brief、2024年3月29日、2024年12月20日）。
最新の調査によって中国のパートナー国が、監視、盗聴、情報操作、フェイク垂れ流しによる国家統治ノウハウを獲得し、自らに適応させいたたかが露呈した。
エチオピア、パキスタン、ミャンマー、カザフスタン、そして新疆ウイグル自治区や福建省といった中国の地域や省で、試験運用を開始していた。
とくにミャンマーやエチオピア政府は中国人プロフェッショナルを雇用していた。
インターネット統治の概念を北京のそれと整合させていた事実が判明した。

　　デジタル・シルクロードとは支配の情報操作ネットワークだ
デジタル・シルクロードは北京の戦略計画の一部。
中国はその戦略政策文書において、インターネット・ガバナンス・システムの輸出を国家戦略の一部として位置付けている。
第14次五カ年計画以降、中国はデジタルインフラ、サイバーセキュリティ、データガバナンスを「国家の復興」という目標に結び付け、
「デジタル主権」の確立と「ネットワーク大国」の実現を訴えてきた。
第15次五カ年計画でも中核技術の自立と一帯一路パートナーとの技術協力の深化が強調されている。
とどのつまり善意の発明が無料で公開され、悪魔がつかった、ということである。

　　　「メディアからの抜粋」へ戻る