自民党が消滅する日　左傾化と迎合の病理　　　岩田温　　　　　　書評　宮崎正弘　　　　　（産経新聞出版） 私たちがイメージした 『自民党』は綱領に 「憲法改正」を鮮明に明記していた。 その 『自民党』と現在の“自民党”は以て非なるもの、ひとことでいえば保守の立場を忘却した、「利権に群がる烏合の衆」である。 それでも野党より多少はマシなのは、なかにしっかりした議員が少数なれど存在していること、 彼らがひとたび主導権を握れば、のこりの自民党議員は流れに乗ってついてくる。 かれらにとっての命綱とは権力に縋ることだから。 自民党はときに左翼となる。 後藤田のような極左が 中曽根政権の中枢にいたし、後に政治信念などまったく無い 金丸トカ、野中トカ、古賀トカが政局を主導した。 日本は泥沼に陥落し、世界から馬鹿にされた。 「自立自尊」とは自らの憲法をもち、自衛できる常識的な軍隊があり、国民を糾合するスピリットをもつこと、それが 独立主権国家の存立理由 だろう。 また世界の常識である。 自民党は 改憲綱領を忘れ、日米同盟深化を国家安全保障の根幹に置くという錯綜ぶり、 米国依存の 南ベトナム、カンボジア、昨日の アフガニスタン、いずれも米軍が去ると、傀儡政権は忽ちにして崩壊した。 在日米軍はやがて去る。 そのとき日本人が防衛に立ち上がるのか、すぐに中国の降伏するのか。 岩田氏の本書の命題は 『何故自民党は保守を裏切り続けるのか？』である。 このままの流れの行き着く先は 自民党の消滅 である。 そうした事態は近未来シナリオとして描けるが、問題は、そうなると、日本が消滅しかねないという危機なのだ。 評者（宮崎）がいつも政治について考えるとき、脳裡に浮かぶのは小林秀雄の言葉である。 石原慎太郎が、政界進出を決意して小林に相談した。 すると小林が言ったのだ。 「君の周りに君のために命を捨てる“決死の士”が何人いるか、それが政治というものさ」 石原は三島の死が強い衝動となって憲法改正を実現させるべく血判という盟約で同士を糾合し 『青嵐会』を組織した。 ハマコー（浜田幸一）や ミッチー （渡辺美智雄）らがいて、議会の内外でおおいに暴れたが、中川一郎の自裁によって勢いを欠き、 やがて 「石原派」に衣替えしたものの、いつしか青嵐会は消滅した。 評者の 政治への期待 はここで終わった。 以後、永田町に出入りすることは激減した。 　安倍政治にも高い期待を抱かなかった。 安倍晋三の周囲に“決死の士”があまりにも少ないうえ、二世議員らには迫力が無く、政策通はいても政治家はほとんど見当たらない。 政治とは組織の中枢をしめる 中核軍団 が必要なのである。　 過日、或るパーティで来賓に岸田前総理が登壇した。 演説などありきたりの挨拶より驚いたのは、まだ彼の周りに SPが 数名警護にあたっているという錯覚的な現実だった。 暗殺に値しない政治家をまもる制度的な宿痾だろうが、パスカルが言った言葉。 「力なき正義は無力だ」。 「たとえその正義が誤ったものであっても現実的には無意味だからだ」 ナポレオンが名言を残している。 「約束を守る最上の手段は約束をしないことである」 権力中枢は中核軍団だとさきほど述べたが、現代日本の政治でいえば 派閥 である。 その 派閥をなくそうというのだから、世界の非常識を日本の政治家が展開していることになり、 みみっちい金額のことで裏帳簿だとか不記載とか、重箱の隅を突き合っている。 アメリカをみよ。 イーロン・マスクはたったひとりでトランプ選挙対策本部に数兆円もの軍資金を投じた。 著者の 岩田氏はここで言う 「争い無き政治は一件安定しているようだが、その本質は議論無き政治という意味で脆弱である。 一方、抗争状態は不安定にみえるが、必死の抗争こそが組織や国家の活力を生む」 ずばり政治の本質を抉っている。 　　　「書棚」 へ戻る